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最高裁判所大法廷 昭和29年(オ)752号 判決 1957年12月25日

主文

本上告論旨は理由がない。

理由

論旨は、鳥取県が所論鳥取火災復興区画整理につき、昭和二七年五月都市計画法施行令一七条一項に基いて、制定実施した鳥取都市計画事業鳥取火災復興土地区画整理施行規程三条によつて、従前の土地各筆の地積は、昭和二七年四月一七日現在の土地台帳地積によることと定められた結果、本件換地予定地指定処分も従前の土地の実測地積を基準とすることなく、土地台帳地積によつたため、土地台帳地積と実測地積との差積は補償なくして取上げられることとなつた、よつて右施行規程三条は憲法二九条に違反し、右換地予定地指定処分も無効である、また、右区画整理事業の設計書によれば、道路、公園等の新設拡張に当てるため、換地の割当を減歩しているが、その減歩地積は結局無償で取上げられたことになるのであるから右設計書も憲法二九条に違反し無効のものである、と主張する。

しかしながら、所論区画整理については前示施行規程三条に基き同規程五条による換地予定地の指定が、一応行われるのであるが、更に行わるべき本換地処分において、所論差積があるときは、これに対し、実際の土地の価額に相当する代償(換地、清算金)が交付さるべきものであることは都市計画法で準用する耕地整理法及び前示施行規程の趣旨とするところであるから(都市計画法一二条二項、耕地整理法三〇条、三一条、前示施行規程一三条ないし一五条)、所論処分によつて所論土地が無償で取上げられることにはならない。また所論設計書によつて生ずる所論減歩地積に対しては、前示と同じ根拠によつて、実際の地坪の価額に相当する代償が交付さるべきものであるから、これまた無償で取上げられることにはならない。されば所論違憲の主張、並に、これを前提とする所論処分等無効の主張はすべて採用できない。

よつて、裁判官真野毅、同河村大助の補足意見があるほか裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

本件に関する裁判官真野毅、同河村大助の意見は次のとおりである。

われわれは、多数意見の結論には賛成であるが、その理由は簡にすぎ一般に理解され難いところがあると認められるから、理由について補足したい。

所論鳥取都市計画事業鳥取火災復興土地区画整理施行規程三条は、「従前の土地各筆の地積は……現在の土地台帳地積による」と定めていることは、所論のとおりである。上告人の論旨は、それ故に土地台帳面積より実測面積が多い場合には、その差積については無償で取り上げられることになり、前記施行規程は憲法二九条に違反する、と主張する。

元来区画整理については、従前の土地の地積を実測地積によつて計画を樹てることが合理的な処置であることは明らかであるが、本件のように整理が広汎な地域に亘り、しかも災害復興という急速な整理施行を要する大量行政処分をなす場合においては、従前の土地を一筆毎に実測して計画を樹立遂行することは計画の実施上著しく困難を伴うものと認められるから、かかる場合には、公簿たる土地台帳地積を一応の基準とすることを定めることは、実施上やむを得ない措置というべく、これをもつて直ちに違法視すべきではない。そして、都市計画法の準用する耕地整理法においては、換地処分につき「換地ハ従前ノ土地ノ地目、地積、等位等ヲ標準トシテ之ヲ交付スヘシ但シ地目、地積、等位等ヲ以テ相殺ヲ為スコト能ハサル部分ニ関シテハ金銭ヲ以テ之ヲ清算スヘシ」(三〇条)と定めている。これに準拠し、本件で施行者が制定実施した鳥取都市計画事業鳥取火災復興土地区画整理施行規程(以下施行規程と略称する)においては「換地は従前の土地の位置、地目、地積、等位、評定価格、利用状況等を標準として交付する」(一四条)「換地の清算について、徴収又は交付すべき清算金額は従前の土地の評定価格と換地の評定価格との差額とする」(一五条)と定めている。すなわち、従前の土地に対しては換地を交付するのが原則であるが、その過不足を生ずることをも予想し、最後には清算金を以て清算することを定めているところから見れば、従前の土地所有者に対し完全な代償を交付すべきものとする趣旨を有することをうかがうことができる。

そこで実測面積より尠い台帳面積によつて換地の交付を受けた者の不利益は、終局の本換地処分において清算されその損失は完全に補填されることになるものと謂わなければならない。

即ち施行規程一五条では、換地の清算について、徴収又は交付すべき清算金額は従前の土地の評定価格と換地の評定価格との差額とする旨を定め、同四条では、従前の土地及び整理後の土地各筆の単位及び評定価格は、その位置、区画、形質、地積、用途、固定資産税による評価額、周囲の状況等を斟酌して決定すべき旨を定めている。畢竟従前の土地及び換地の評定価格とは、具体的特定の土地即ち実地の客観的価値を指すものであつて、その実体を離れた単なる土地台帳地積のみによつて評定せらるべきものと解すべきでないことは明らかなところである。

そして本換地処分に当つては、従前の土地と換地との評定価格を比較し現に交付を受くる換地に過不足を生ずるときは、金銭を以てその過不足を清算することになり(施行規程一五条、耕地整理法三〇条一項但書)不足の換地を交付された者は、不足分に相当する清算金の交付を受くることによつて、従前の土地に相当する代償が与えられるものと解すべきである。従つて本件換地予定地の指定を受けた上告人等も、施行規程一三条により行わるべき本換地処分において、新旧土地の評定価格につき生ずる差額は、清算金として清算されるので、結局相当な代償が与えられることになり、所論のように実測地積の増歩が無償で取上げられることになるというを得ないのである。されば施行規程三条が憲法二九条に違反し換地予定地指定の処分が無効であるとの所論は採用できない。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 入江俊郎 裁判官 池田克 裁判官 垂水克己 裁判官 河村大助 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 奥野健一)

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